伝統的な対立軸の移動

氏に対して育ちを強調する伝統的な良識的見解によれば、DNAの若干の改変では生物は変わらない。とすれば人間の遺伝的改変に対しては、その効果と意義についての判断はさておき、寛容でもなければならない。他方、倫理的立場からその改変を禁じるとすれば、そのとき図らずも論者はDNA決定論の立場を採ってしまっている可能性がある。こうしたねじれは、すでに氏か育ちかという対立軸が無効となっていることを示すのだろうか。そしてもしそうだとしたら、依然としてこの対立軸に依拠して人間について語る社会学的な議論は何をしていることになるのだろう。保木本一郎2003『ヒトゲノム解析計画と法』日本評論社

ヒトゲノム解析計画と法―優生学からの訣別

ヒトゲノム解析計画と法―優生学からの訣別