ある会議にて

昨日、ある研究プロジェクトの全体会議に参加した。この分野でもっとも進んでいると思われる方々の様々な研究報告を、うかがった。開発中の技術や進行中の実験のアイデアを聞き、登壇者のみなさんの旺盛な探求心に感服した。


しかし基礎的な概念についてのビジョンが欠けているように思われ、この点に――そしてこの点に限り――疑問をもった。


このプロジェクトの主題のひとつは、感覚・知覚経験や社会的場面といった日常生活における様々な困難(あるいは障害)であるはずだ。しかしその知覚経験や社会的行為とは、どのような現象なのか。こうした経験や行為のあり方に対して、脳神経からとられたデータはどのような関係に位置づくのか。乳幼児と大人との相互行為を母子関係として概念化することにどの程度の適切性・有用性があるのだろうか。


おそらくこういった事柄は、このプロジェクトのもとで進められている各研究にとってみると、小さな事柄だと思う。とはいえそうした研究が、他でもなく日常生活における困難の経験やそのような経験をもっている人たちについての研究でありえるためには、こうした点について明確な理解を得ておくことは欠かせないように思う。


40年ほど前、ある社会学者が精神科医たちに対して示した問題提起は、いぜんとして十分に追究されることのないままに残っているように思う。