道徳から見た行為者とその行為

この論点〔道徳が行為者の選択とその理由づけだけにではなく、それがなされる状況しかも行為者から見られた状況に関わっているという論点〕を表現するために、状況、状況が提起する問題、そしてその問題を論じるのに適しいタイプの理由、これらは或る何らかの視点を既に含んでいる、と私は言いたい。そして、当の状況のなかにいる行為者はそうした視点とどのように関係していると私は考えているのか、という質問に簡潔に答えなければならないとすれば、サルトルも同様に言うと思うが、行為者自身がこの視点であると言おう。とはいえ、私はこれ以上サルトルに倣うつもりはない。サルトルはここから先はひどい混乱に陥っているように私には思われる。それは、状況に対してある視点が存在しうる可能性を行為者の問題へ再び解消してしまうことはできない、という点を、彼が明確には理解していないからである。むしろこの可能性は、現行の言語、すなわち個人の発明では決してないところの言語、ここにかかっているのである――サルトルも繰り返しこのように語ってはいるが。

  • Winch, P. 1972, "Moral Integrity," Ethics and Action, Rutledge & Kegan Paul.(=1987, 奥・松本訳「道徳から見た行為者とその行為」『倫理と行為』勁草書房, 251頁.)